北アルプス横断縦走 2009 夏 4日目  09.08.11
双六小屋         04:20
樅沢岳          04:50/05:20
千丈沢乗越        07:45
槍ヶ岳山荘        08:55
槍ヶ岳往復後発      09:55
ヒュッテ西岳(天泊)    12:50


早くに目覚め、テントの外に出てみれば、まだ夜明けの気配はなく、久しぶりに満天の星空を見上げた。

星空 星空

昴(すばる)と呼ばれるプレアデス星団が頭上に見える。

あの光りが幾つ見えるかで、その地の大気の透明度が判るらしいが、 アルプスの山稜から見るこの星空は、どこの空にも負けていないと思う。

双六小屋の天場

月明かりに照らされていた天場にも、オレンジ色やら緑色やらの明りが灯り始めた。
双六小屋の天場

潰れたレーズンパンとスープの朝食を済ませ、4時前には出るつもりだったのに、 バルブ撮影などして遊んでいたらいつの間にか4時近く。 慌てて撤収に取りかかり、天場を後にした時には4時を大きくまわっていた。

天候は晴れ。昨日小屋で確認した予報では曇りだったが、それは下界のことになったようだ。 相変わらず吐き気があるので、ゆっくりと標高を上げていくと、アルプスを取り囲むように雲海が広がっていた。

樅沢岳(もみさわだけ)へ 後方には昨日巻いた双六岳が見えてきた 樅沢岳山頂
樅沢岳(もみさわだけ)へ 後方には昨日巻いた双六岳が見えてきた 樅沢岳山頂

月光に照らされていた自分の影が無くなる頃に樅沢岳へ到着した。 山頂では大きく育ったハイマツに展望が隠れるので、少し先の突端まで行くと、三脚を立てた先客が2人。


樅沢岳の展望。
樅沢岳の展望。

4日目にして初めて槍ヶ岳を見ることができた。

まだ出ぬ太陽に上空の雲が染まり、槍ヶ岳へ続く西鎌尾根の鞍部には、ガスが巻くように流れ、美しいシルエットが浮かび上がっていた。 今日はついにあのトンガリに登るのか。

小さなピークに留まっていた早出の登山者と、今日の良き日を喜び合う。 見ず知らずの人達と、純粋な喜びを分かち合うことができるのも、山ならではのことだと思う。 皆、昨日の雨にやられているので、喜びもひとしおだ。

皆で迎える日の出 唐沢岳、餓鬼岳遠望
皆で迎える日の出 唐沢岳、餓鬼岳遠望

写真を撮っていると、何か足元が揺らぐように感じた。不安定な岩に足を掛けていたからかと思い、 平らな場所に降りて足元を見てじっとしてみても、ゆ〜ら〜、と揺れた。 昨日は飲みすぎたかな?この登りでは吐き気もあったし、今日は相当に体調が悪いようだ。 ヤセ尾根などでは気を付けて歩かねば。

西鎌尾根と槍ヶ岳 西鎌尾根と槍ヶ岳

素晴らしい展望に30分もこのピークに居ついていた。 一人、また一人と、今日の目的地へ向かっていく。

西鎌尾根へ歩き出した。大小のピークはトラバースすることが多く、静かで歩き易い道が続く。

三俣蓮華岳と鷲羽岳 西鎌尾根から槍へ
三俣蓮華岳と鷲羽岳 西鎌尾根から槍へ

樅沢岳から先行する登山者と大天井岳。 四日連続の雷鳥。明日も遭えるかな?
樅沢岳から先行する登山者と大天井岳。明日はあの山を越える。 四日連続の雷鳥。明日も遭えるかな?

槍ヶ岳へ 槍ヶ岳へ

4日目にして快晴だ。

樅沢岳から先行していた単独男性が、無線の様なラジオを聞きながら立っていた。 私が近付くと「樅沢岳の上で揺れを感じましたよね?」と聞いてきた。驚きながら確かに感じたことを伝えると 「あの揺れは静岡の地震らしくて震度6ですって」。 すっかり飲み過ぎのせいにして、今まで揺れたことも忘れてしまっていた。 下界の被害も心配だが、まずは入下山口や、これから歩く登山道に影響が無いことを願う。

西鎌尾根は森林限界を超えているので見晴しがいい。右に目をやれば、双六から続く笠ヶ岳への大質量の稜線が圧巻だ。

鏡平山荘と切戸岳 鏡平山荘と切戸岳

新穂高温泉に漂うガスが更に高さを強調している。

中央奥に僅かに頭を出しているのが笠ヶ岳だ。

少しずつ槍が近づく 少しずつ槍が近づく

鞍部に巻くガスに出たり入ったりを繰り返して、その都度ブロッケンが現われる。 残雪の上を吹き上がるガスが、体を包み込むように流れて、夏のアルプスの心地良い一瞬に酔う。

車百合などの花達 ブロッケン
車百合などの花達 ブロッケン きれいな二重輪

道はやがてハイマツ帯になり、朝露をたっぷりと含んだ枝葉にズボンをしっかり濡らされながら歩いた。 千丈沢分岐に近付いてくると、逆方向ではあまり通りたくないような、足元がザレた嫌らしいクサリ場が続き、 数えるほどのすれ違いのみで千丈沢分岐へ到着した。

千丈沢乗越 千丈沢乗越

ついに槍の付け根まで来たぞ。

周囲を見渡すと、ガスが目線と同じ高さまで上がってきていた。 槍の頂で真っ白というのも何だし、槍岳山荘までのつづら折れの岩斜面の道を、落石を起こさないよう気を付けて急ぐ。

急登を行く 雲との競争 笠ヶ岳も雲に隠れた
急登を行く 雲との競争 笠ヶ岳も雲に隠れた

もうすぐで稜線に出るころ、爆音が近付いてきたので振り向くと県警のヘリだった。 しばらくホバリングした後、笠方面へ飛び去った。 登山道や登山者に地震の影響が及んでいないかを確認しているのだろう。

斜面を回り込むように稜線まで登り切ると、目の前に大きな槍と小槍がいきなり現われた。 「おお〜」と、ここでザックを降ろして写真を一枚。

大槍、小槍 大槍、小槍

目の前にいきなり現れるんだもん、ニクイ演出だ。

この展望の後、すぐに槍岳山荘に到着。様々な登山者がくつろぐ山荘周辺の雰囲気に、変だが都会に来たような気分になった。

山荘の脇にザックをデポして一息入れる。それにしても、よくもまあ、あんな頂まで道が付いているもんだ。 頂上直下には2本の梯子が光っている。そういや、上りと下りでは道が別れていると、知り合いが言っていたのを思い出した。 一眼はザックに中に入れて登りはじめた。

槍ヶ岳 槍ヶ岳

槍岳山荘前より

確かに要所要所は道が別れ、渋滞が起きないようになっている。 すぐ上を登っている中学生と思われる一団では、「ちょーこえー!」を連発して足がすくんでいる子もいたが、 先生がフォローしてゆっくり登っていた。下を見れば私でもゾゾゾっとする岩峰だもの。 時間外にこんな活動をしている先生には頭が下がります。

大喰岳、中岳、南岳 大喰岳、中岳、南岳

槍ヶ岳直下にて。高度感抜群です。穂高も雲間にちょっと見えていた。

穂先へ かなりな角度をよじ登ります
穂先へ かなりな角度をよじ登ります

という私も基本的に高いところは苦手な方なので、こんなところを嬉々として登る人らの気がしれないが、 クサリや梯子を何度も越えて、直下の鉄梯子を垂直に登って山頂へ。

槍の穂先からは、青空とま白な雲海が広がっていた。 雲に巻かれつつある穂高は一段低く見え、まるで雲の上に突き出した塔のような頂だった。

槍ヶ岳にて。その中学生に撮ってもらった。

これまで登った様々な山頂で、幾度となく探し、眺めていた槍ヶ岳。今、そのてっぺんに居るのかと思うと、少し上気した様な嬉しさと幸運とを、ひしひしと感じる頂だった。
槍ヶ岳にて

下山開始 下山開始

まあ、爽快な気分になれる頂であることは確かだが、下山のことが頭にあるので、私はのんびりと憩う気分になれない。
下りの人が一段落したのを見計らって、10分も経たないうちに降り始めた。

まずこの垂直な梯子。

この夏も大勢の人が登降しているのだし浮石など無いとは思うが、自分が落ちないことと落石を起こさないことだけに集中して、 慎重に降りていく。

山荘まで無事に降りると登山者の数が減っていた。しかし下を見ると槍沢から登ってくる何列かの登山者があり、穂先に登るには丁度よい時間帯だったのかも。

さて、予定通り西鎌から東鎌へと尾根通しで歩きだす。ガスが大分上がっていて、今日の目的地の西岳が見えないことに気ばかり急く。

東鎌尾根へ いい道です 東鎌尾根
東鎌尾根へ
下に見える小屋は殺生ヒュッテ
いい道です 東鎌尾根
陽射しがとにかくきつい

槍沢からの道の合流点にヒュッテ大槍がある ヒュッテ大槍にてなっちゃん休憩
槍沢からの道の合流点にヒュッテ大槍がある。 ヒュッテ大槍で、なっちゃん休憩500円也。
稜線を見上げると槍は隠れてしまった。

気が急いている理由がもう一つあって、靴下が昨日乾かなかったので今日は二足目なのだが、靴自体の濡れが染み出して、今、靴の中はぐちょぐちょな状態。 昨日の行動中と変らない感触だ。早く脱ぎたくてしようがない。潰れたパンを口の中に押し込み、なっちゃんで流し込んで出発。

北鎌尾根 沢筋には残雪が多い ヒュッテ大槍からの東鎌尾根は雰囲気が変る 2595ピーク付近
北鎌尾根 沢筋には残雪が多い ヒュッテ大槍からの東鎌尾根(喜作新道)は雰囲気が変る 2595ピーク付近

喜作新道は、標高も下がり、陽だまりのようなムッっとした暑さが続く。 低木帯に入ることもほとんど無く、梯子や階段の連続でかなり体力を消費した。と思っているところに、こんな梯子にも出くわす。

梯子3連続 梯子3連続

補強されたヤセ尾根の向こう、梯子が3つ立てられてピークを超えている登山道もあった。 手強い縦走路だ。

いつもエアリアのみで計画するので、東鎌尾根がこんなにきついとは知らなかった。 陽射し側になったのもあるが、梯子が多く重荷に堪える。 へたり込んで休む若者達もいたし、水場も無いので夏場に歩く時は、CT以上の難路と思っていた方がよいと思う。 歩く時は日が高くならないうちが吉だ。

水俣乗越 西岳 斜面には崩れた跡も
水俣乗越 北鎌をやる山屋さんが越えていく場所 西岳 最後の直登が待っている 斜面には崩れた跡も

ヒュッテ西岳

やっとこさ到着。いやーきつい道だった。
と、とりあえず、ザックを転がして350缶。わっ、冷蔵庫から出てきて冷たい〜
・・・あぁ、昇天しそう。。。
天場

西岳の天場は超開放的。雲が湧き上がっていたので夕立が恐くて私は一段低いところに張ったが、尾根上に張れる天気であれば、 それはそれは見事なロケーションだ。

常念側の一段低い天場には、先にワンゲル風の大きなテントが張ってあったので、その奥のスペースに設営。 靴を脱いだら、何とも言えない匂い。ここの水は有料であるが、背負ってきたぬるくなった水で足を洗い、サンダルに履き替えた。 しばらく陽射しがあったので、靴以外は完全に乾いた。

槍ヶ岳にて テントの片付け物が終わったら憩いの場へ。小屋裏にはテーブルがあり、子連れや外国人や様々な登山者達が憩っていた。 生憎と槍はガスの中に隠れていたが、山好き達の話は飽きなく、お互いの山のことなど和みながら時間が過ぎていった。

夕飯は肉味噌。

話をしたところ、槍から来たのは私だけだった。ほとんどの人が燕山荘からで、皆、明日の槍行きを楽しみにしていた。 明日に下山の私だけは、何の歯止めも無く、気付いたらもう5本目。

高台の天場から 私のテントからは常念の展望だ
高台の天場から。ガスが下がって槍が見え出した。 私のテントからは常念の展望。

西岳 天場より

今日の張り数は6張。あまり混むような天場ではないらしい。
今日の張り数は6張。

酔いが回った体で写真を撮りながらうろうろしていたら、西日に照らされた西岳が気になってきた。時刻は午後5時半を回っている。 明日登ればいいかと思っていのに、いつもの酔ってからの徘徊グセがでてきたらしい。 大体乾いた登山靴に履き替えて、登り20分程度と聞いていた西岳へ向かった。

西岳から見下ろす。
西岳から見下ろす。

酔った足で、ゆっくり登って20分、山頂にはカメラを構えた若者が1人。 アルコールで体中に熱い血が回るような私は、挨拶もそこそこに深呼吸した。

尾根の直上の天場と、谷から立ち上がる穂高とが、槍に沈もうとしている西日に照らされていた。

槍へ日が沈む 槍へ日が沈む

私の時計で18:16、槍の肩へ日が沈んだ。

先に山頂に居た若者と、後から登ってきていた女性は、日が沈むと小屋へ戻っていった。

日没後の槍 雲海の常念岳
日没後の槍 雲海の常念岳

山頂で独り残った私は、空のすじ雲が染まらないかなと、ぐずぐずと降りれないでいた。 風も湿気を含んで冷たくなってきたし、再度ガスが上がってきたので、諦めて降ろうとしたら、ヘリが松本方面から槍へと一直線に飛んでいった。

こんな時間に何だろう?この時は、登山者の事故か急病かの何かだろうと思っていた。 山ではよくあることだし、大して気にも留めていなかった。

落日の槍へ飛ぶ

何気なく撮った一枚だが、この山行の下山後に、知人の遭難救助の為に飛んでいたヘリであることを知った。

その人は、残念ながら、北鎌で帰らぬ人となった。

あの、いたずらっ子の様に笑う笑顔ばかりが、思い出される。
槍の空へ飛ぶヘリ

天場に降りる頃にはすっかり暗くなった。皆テントに入っているようで、遠く、北穂高にも小屋の明かりが見えている。 最後の夜だからと粘っていた私も、大人しく寝ることにした。


5日目ヘ 北アルプス横断縦走