北アルプス中部縦走 2007 夏 4日目  07.08.13
船窪小屋天場      4:25
船窪岳         5:15
不動岳         9:10
烏帽子岳       12:55
烏帽子小屋(天泊)  13:40

今日は稜線の崩壊が激しいと言われている道を歩く為、周囲が白んできてからの出発にした。 びすこさんはテントの中で朝食中のようで、「お先に」と声をかけてから天場を出た。

辺りはまだ薄暗く、先行組のヘッドランプが樹林の中にちかちか動いている。 昨日までの稜線歩きとはうってかわり、北アルプスのイメージとは違う陰鬱に感じる樹林帯を下ると、すぐに左側が切れ落ちる道になった。

崩壊した斜面

登山道は稜線の縁に沿ってつけられており、注意しながら歩いていないと、登山道に侵食してきた崩壊地に足を置いてしまいそうで危ない。

崩壊は絶え間なく続いているようで、古い道が空中に消えて新しく迂回しているところもあり、ヘッドランプ頼りで歩く時間帯は行動を避けた方が賢明だ。 ただ、奈落の底まで続くような不気味で迫力ある景観は、大地の鼓動を感じさせる凄みが伝わってくる。
崩壊した斜面

最初のロープ場で先行組(昨日「蓮華の大下り」で抜かした組)に追いついたので、広いところで抜かさせてもらう。 船窪乗越を過ぎて船窪岳へ登る途中で日に照らされた。

不動岳、槍ヶ岳が染まる< 高瀬ダムの湖が見えている。

右に染まる不動岳への険しい道は、まだ始まったばかりだ。

長い梯子状の階段を登りきって少し行くと、山頂標識が無ければ見過ごしてしまいそうな船窪岳に到着。

周辺の登山道は思っていた以上に整備されており、ロープ・梯子が連続し、その作業がとても大変だったろうな、と容易に想像できる道だった。

船窪岳手前の梯子 船窪岳山頂 空中を行くような登山道
船窪岳手前の梯子 船窪岳山頂 空中を行くような登山道

ロープ・梯子などは、一つ一つを見ればちょっとした山ならどこでもある様なものだが、それが連続しているので気が緩みやすい。 ヤセ尾根もあるので、重荷を背負っている時など特に注意が必要だ。

そういう私もロープが張られた長い斜面で、ザックの重みでバランスを崩し転げ落ちそうになった。 ハシゴ・梯子・ヤセ尾根が連続した後だったので、見た感じは大した斜面じゃないと思い油断したのが原因。 (ゆっくり、確実に、)と反芻する。

ヤセ尾根 ほんと痩せてます 危なかったロープ場 2459ピーク
ヤセ尾根 ほんと痩せてます 危なかったロープ場
上から見ている
2459ピーク
→船窪松澤岳とか

何度かピークを過ぎると、見晴らしが出てくるようになってきた。不動岳が間近に迫ってきたが、まだまだ時間がかかりそうだ。

不動岳へ 立山
不動岳へ 振り向けば立山

見晴らしが出ても、また樹林帯に入るを繰り返す。 登山者に出会うことも少なく、いかにも熊が出そうな静かな森なので、わざと熊鈴を大きく鳴らして歩く。

コバノイチヤクソウ 小葉の一薬草 コフタバラン 小二葉蘭 シナノナデシコ 信濃撫子
コバノイチヤクソウ
小葉の一薬草 イチヤクソウ科
コフタバラン 小二葉蘭
ラン科
シナノナデシコ 信濃撫子
ナデシコ科

終わったかと思うとこんな道 タテヤマウツボグサ 立山靫草 シロバナタテヤマウツボグサ
終わったかと思うとこんな道 タテヤマウツボグサ
立山靫草 シソ科
白花
シロバナタテヤマウツボグサ

不動岳、槍ヶ岳が染まる< 歩いてきた峰々

展望地で休憩。歩いて繋げてきた山を見ることができるのも縦走の醍醐味だ。

昨日の水場も見えており、とんでもない崩壊地にあるのが分かる。次回来る時には水場の位置が変っているかもしれない。

山名表示

登山道を歩いていると谷から吹き上げる風に硫黄臭が混じっていた。意外と山にいる間は風呂に入りたいと思わない性質だが、 急に寄ることに決まった高天原の温泉が楽しみに思う匂いだ。

谷底が見たくなり、谷の方へちょっと顔を出してみると、パラパラ・・っと砂が落ちる音がした。 びっくりして山側に戻り、先の方に目をやると、登山道の縁が崩れ落ちていて、木々の根だけで登山道の一部を空中で支えている。 あぶない、あぶない、ほんとに気が抜けない道だ。

不動岳から、南沢、烏帽子、野口五郎へ伸びる稜線 コマクサと針ノ木岳
南沢、烏帽子、野口五郎へ伸びる稜線
不動岳より
コマクサと針ノ木岳

ハイマツ帯になり周囲の山を見ながら登っていくと、あちらこちらにコマクサが咲く不動岳に到着。

不動岳山頂 親不知からの単独行者
不動岳山頂 親不知からの単独行者

駒草の大お花畑
不動岳の駒草の大お花畑

私が今まで見た中では、一番の規模の駒草たちが咲き誇っていた。まだ花はうらぶれてなく、この時期なのにきれいな姿を保っていた。 青空に広がるピンク色のお花畑での憩いは格別な時間だ。

前に烏帽子岳、背後は水晶岳 お花畑
前に烏帽子岳、背後は水晶岳 お花畑 桃色:イブキジャコウソウ、黄色:ミヤママンネングサ、白色:トガクシコゴメグサ

テガタチドリ 手形千鳥 ミヤマクワガタ 深山鍬形 タカネナデシコ 高嶺撫子
テガタチドリ 手形千鳥
ラン科
ミヤマクワガタ 深山鍬形
ゴマノハグサ科
タカネナデシコ 高嶺撫子
ナデシコ科

不動岳から南沢岳へは、一旦降りて低木帯を歩き、南沢乗越で低木帯から出ることになる。白砂の鞍部から見上げる南沢岳へ登れば、今日の行程はほぼ終わったようなものだ。

南沢岳への登り 南沢乗越より 道の左は高瀬湖へ崩壊している
南沢岳への登り 南沢乗越より 道の左は高瀬湖へ崩壊している

最後のひと登りをしていると、足元のハイマツ沿いに、初めて見る花が咲いていた。白色とピンク色のグラデーションと小さな姿が可愛らしく、しばらくしゃがんで眺める。

後で調べるとリンネソウという1属1種の花で、茎の先端に2つの花が付くので、別名夫婦花とも言うそうだ。

タニギキョウ 谷桔梗 リンネソウ リンネ草 コガネイチゴ 黄金苺
タニギキョウ 谷桔梗
キキョウ科
リンネソウ リンネ草
スイカズラ科 矮性低木
コガネイチゴ 黄金苺
バラ科

南沢岳へ登り終えると、視界が一変した。

南沢岳からの展望 南沢岳からの展望

湧き上がる雲の上を進むように、白砂の稜線に蛇行して伸びる天上の道。

不動岳・南沢岳なんて全く認識していなかったのに、こんなに素晴らしい山だったとは。

縦走は、ところどころに思わぬ喜びを用意してくれている。

駒草・雲間菫・深山爪草などが咲く白砂の道を歩き、烏帽子田圃へ降りていくと、あっという間に雲の中へ入ってしまった。 烏帽子岳は分岐からピストンする予定なので、雨だけは降らないでもらいたいと願う。

この落ち込んだ地形が烏帽子田圃なのかな? 四十八池
この落ち込んだ地形が烏帽子田圃なのかな? 四十八池

烏帽子岳への分岐にて

分岐まで来ると有り難いことに雲が取れてくれた。道標の周りにはザックが置かれている。私も同じようにザックを転がして、頭が見えている烏帽子岳へ向かった。
烏帽子岳への分岐にて

歩き出すと、烏帽子岳方面から戻ってきたご夫婦がすれ違い様に「熊がいるので気を付けた方がいいですよっ!まだいるからしら?」と、やや興奮気味で教えてくれた。 ちょっとびくびくしながら、登山道の西に落ち込んだ地形の池を眺めて歩いていると、確かに熊が遊んでいるのが判った。 登山を始めて7,8年、写真に収める余裕があるぐらい、はっきりと野生の熊を見たのは初めてだったので、 感動で心拍数が上がった。

実際には100m以上は離れていたので、熊牧場で見るより遠いぐらいなので余裕だったが、周りの草木と比べても大きな熊なのが見てとれた。 あぁ、ほんと、樹林帯でバッタリすることなんて一生ありませんように。

お花畑で遊ぶ熊さん さて、改めて烏帽子岳へ向かいます
お花畑で遊ぶ熊さん さて、改めて烏帽子岳へ向かいます

烏帽子岳直下のクサリ場は、区間は短いが危険度が高い。クサリ付近で躊躇している登山者もいたので、私も慎重に山頂まで登った。

こんなとこを垂直に登り 今度は水平に岩溝を歩き そして烏帽子岳山頂
こんなとこを垂直に登り 今度は水平に岩溝を歩き そして烏帽子岳山頂

帰り道では熊の姿は無かった。次に見るのはいつだろう?まぁ、基本的にもう見なくても良いのだけれども。

前烏帽子岳から見る烏帽子岳は、すでに雲に包まれていた。熊も見れたし烏帽子からの展望もあったし、絶妙なタイミングだったなぁ。 山の神様、ありがとう!

烏帽子小屋 烏帽子小屋

烏帽子小屋に着く頃には上空はすっかりガスに覆われ、じっとしていると寒い。

夕立があるかもしれないので、まずは急いでテントを張りに行く。

天場は野口五郎岳方向へ進む登山道沿いにあった。いや登山道沿いというよりかは、その区間の登山道が広くなっていて、 さら地のどこでも張っていいような作りになっている。見た目は広いのだが平らな箇所が少なく、到着が遅いと特に大型テントは設営場所に苦労しそうだ。

烏帽子小屋の天場 小屋の方より

今見えているのが最上部の場所。あんな広さが3段階ぐらいで、下へと繋がっている。

一番下の天場は、画像中央左に見えている池のほとりだった。
烏帽子小屋の天場 小屋の方より

びすこさんも程なく到着。お互いテントを張り終えたらお楽しみ時間の始まり。今日は小屋も近いし、ビール飲むぞー!(たくさん飲むの意)。 小屋前は風があって寒いので、ビールを買って天場まで降りて来ると、到着したばかりの男性が「あれ?どこかで会いましたね!?」と声をかけてきた。

私も見覚えがあり、必死に思い出していると、なんと、去年の夏の南ア縦走で顔見知りとなって、夕方まで聖平小屋の天場で飲み交わした方だった。 「お互い、山をやっていれば、またどこかで会えますね。」と別れた方と、ちょうど1年後に、こんな山奥の天場でばったり出会うなんて、こんなに嬉しいことはない。 こうなっては、もはや宴会しかないではないか。先着していた親不知からのお兄さんも巻き込んで、暗くなるまで、飲み、笑い、山の夕を楽しく過ごした。

偶然にも出会った面々でささやかな宴会< 偶然にも出会った面々でささやかな宴会

ささやかといっても、1年ぶりに再会した方に、追加分も含め、たくさんお酒を頂いてしまった。ごちそうさまです。

この4人がここで会う意味とは、いったい何なんだろう。最近の山での不思議な縁は、偶然では片付けられないものがある。


5日目ヘ 北アルプス中部縦走